祇園の繁華街にある商業ビルの外構改修工事をお任せいただきました。
オーナー様のご意向は、全体的にグレードアップさせ、デザインはシンプルにカッコよく、入居者様が使いやすいように、とのことでした。
花街のある祇園は、京都市の中でも和の印象が強く華やかな場所。しかしこのビルの場合、和のテイストは「はんなり」という感じではありません。建物が元々持っているクールな雰囲気に合わせるようモダンな和の方向で設計しました。
今回、改修を行なったのは正面エントランスで部分で、入居者専用出入り口と、店舗を訪れるお客様専用出入り口の2ヶ所です。
改修工事前の入居者専用出入り口には、簡易な門扉がありました。後付けのため、門柱部分はビス止めされているのみですから、使用するうちガタつき、ドアが歪んでいます。また、地下階への階段側には門扉がないので、何時でも誰でも入れてしまい、困ったこともあったとか。
一方、店舗側の入口は、人工竹の壁材や黒竹の花壇と柔らかな和の風情で、現オーナー様のお好みではありません。ここには植物は無い方が良いとのことでした。
そこで、店舗側は花壇を撤去したのちに、モダンな延段をご提案しました。
延段とは、和の庭で使われるアプローチの一種。色々な石材を組み合わせ意匠的に凝りつつも歩きやすく作ります。
こちらの延段は、ビルの外壁材の色に合わせモノトーンの色調で統一。板石や川石、瓦材、砂利など、材の質感は異なりますが、色調を合わせることで、調和させたつもりです。
フォルムの違いを活かして、グラフィックデザインをするように考えてみました。小さな石庭のような面白い延段です。
足元を注目していただきながら、エレベーターまでゆったりと歩みを進めていただけるといいなと思います。
新しく設けた延段は、御影石を敷き詰めた石畳や、周りの建物ともよく合って、街並みにも少しは貢献できたかなと思います。
さて、もう一方の入居者専用の入口の方は、セキュリティーを重要視して、開口部一杯に新たに門扉を設置しました。
商品は三協アルミ社製の鋳物門扉「ジオグランテ」をご採用いただきました。同社の最上位モデルです。
溶かした金属を型に流し込んで作るものを鋳物と言いますが、この製品はアルミでできているため、鉄に比べ重量は約1/3程と軽いです。アルミは錆びにくいためメンテナンスの手間もかかりません。
普通のアルミ形材門扉は、アルミの角材を組み合わせたものなので、デザイン的には少し硬い感じに見えますが、鋳物は型から設計できるため、複雑で奥行きのあるデザインが可能です。
ジオグランテは、アクリル粒子を含んだマットな質感ある塗装が施されており、実際に見ると本当に素敵です。静かでスムーズな操作性もさることながら、全体的に品のある佇まいが素晴らしい。電気錠&インターホン解錠など現在の暮らしにフィットする便利な機能を追加することも可能です。
大型門扉は一昔前までメーカー製品にこのような洒落たデザインはなく、それこそ鉄工所や専門の工房等に設計図を渡してオーダーメイドするしかありませんでした。それにはこの世に一つだけという付加価値はありますが、滅多におすすめは出来ません。値段的にも利口で機能的に優れた製品が出回り始めとても嬉しいです。
商業施設では、集客のための雰囲気づくりと、どなたでも安全に使えること、入居者様に「使いやすい」「気分がいい」と思っていただけるようなデザインが重要と考えます。
既存の建物のデザインを踏襲し、周囲の景観にも幾許か貢献しながら、それらをさらりと表現したいなと常々頭に置いて設計しています。
今回は改修でしたから、施工面において難しい局面もありましたが、上手くまとめられたかと思います。
竣工 2024年7月
場所 京都市東山区
施工内容 外構